世界のアート市場はここ10年ほどで激変している。
世界最高峰のアートフェア「Art Basel(アートバーゼル)」と、そのメインスポンサーであるスイスの金融機関、UBSグループが発表したレポート「The Art Market 2018」によると、世界の美術市場の売り上げは年々増えており、2017年には637億米ドルに達した。これは、2016年度比で12%増となる。
そのうち、アメリカ(42%)、中国(21%)、イギリス(20%)で全体の83%を占めているという。
成長著しいのが中国市場で、UBSがメインパートナーを務める「アートバーゼル香港」が2013年から開催されているほか、多くのアートフェアが中国で開催され始めている。
中国に続けと国策としてアートの振興に力を入れているのが、シンガポールだ。
例えば、シンガポール政府とパートナーシップを組んで2011年から開催されている「アートステージ・シンガポール(Art Stage Singapore)」は、アジアでもっとも規模の大きなアートフェアの一つに成長した。
アート作品の購入手段も変化してきている。
以前はギャラリーやオークションで購入するのが一般的だったが、最近では購入場所がアートフェアやオンラインに移行しつつあるという。
特にオンライン市場はこの5年間拡大し続けており、2017年度は54億円に達した。これは、前年度比10%増で、美術市場全体の約8%を占める。
オンラインマーケットの特徴としては、バイヤーの45%が新規であることが注目されている。つまりこれまで美術作品を購入したことがない人がオンラインでアート作品を購入しているのだ。
貸し出しを目的とした投資用アート
シンガポールを拠点にアートギャラリー「Art Works(アートワークス)」を経営するTroy Sadler(トロイ・サドラー)氏は、「オンラインで初めてアートを購入する人が増えているということは、アート市場にまだまだ伸びしろがあることを示している」と分析する。
Sadler氏のArt Worksは、美術品を販売する一般的なアートギャラリーとは異なる。
投資を目的とする顧客にアート作品を販売し、その作品を借りたいという企業や個人にリース契約をして貸し出す。
リース料はアート販売額の6%で、Art Worksは手数料として1~2%を受け取る仕組みだ。
Art Worksは、アートを購入した投資家とアートの借り手の間に立ち、仲介する役割も果たしているというわけだ。
リースの顧客は、ホテルや金融機関、一般企業や個人までさまざま。
金融機関や法律事務所などでは応接室の装飾として、社員が働くオフィスに飾って企業のアイデンティティを強化し、インスピレーションを得られるような環境作りのために活用している企業もあるという。
購入ではなくリースなため、アートを定期的に変えて部屋の雰囲気を変えることも可能だ。
アート作品はインフレに強い資産ポートフォリオ
Sadler氏は、「アート作品は、インフレに強い資産ポートフォリオ」と説明する。
彼によると、投資に向くアート作品の価格は2万~15万シンガポールドル。高額すぎるアートは貸す先が見つかりにくいという。
「初めてなら15万シンガポールドル程度のアートがいいでしょう」(Sadler氏)。
取引が多いのは10万~30万シンガポールドルのアート作品だという。
「これらを5年から7年程度所有し、できるだけ長く貸し出す。その後、弊社の顧客から他の顧客に転売した場合、10%の委託手数料をいただいている。15万シンガポールドルで買ったLincoln Townley(リンカーン・タウンリー)の作品が、30万シンガポールドルで転売出来たケースもある」(Sadler氏)
Art Worksでは、主に、アジア圏、イギリス、オーストラリアのアーティストによるオイルペインティングの現代アート作品を取り扱っている。
例えば、イギリス人では、Lincoln Townley(リンカーン・タウンリー)、オーストラリア人ではMark Hanham(マーク・ハンハム)やJason Benjamin(ジェイソン・ベンジャミン)、またアボリジニアーティストのJudy Napangardi、中国人では、Liao Zhenwu、Liu Liguoといった世界的に評価の高いアーティストが挙げられる。
アート作品の価格は、オークションやアート市場の動向を確認し、専門のコンサルタントが見極める。
「弊社はシドニーと香港にもオフィスを持っていて、世界のアート市場の動向に詳しい専門のスタッフがいるので、どういう作品が投資に向いているかを説明してコンサルティングします。アート業界の最新情報も提供しているので、弊社でコンサルを受けている投資家は、アートの知識を身につけてその価値を見分けられるようになるというメリットもある」(Sadler氏)
投資家に購入されたアートの約80%が貸し出される。
貸し出しを希望しない顧客でも、環境のいい倉庫で保管を委託されることが多いという。
Sadler氏はクアラルンプールにも頻繁に訪て投資家に会っており、クアラルンプールにギャラリーを作る計画も進めている。
マレーシア在住の顧客も増え始めており、そのほとんどがアートを手元に置かず、貸し出すかシンガポールで保管することを選ぶという。
今後注目すべきは東南アジア
アート作品は、Art Worksがアーティストから直接買い付ける。
アーティストを発掘するところから始めるわけだが、年に3回は北京に行き、既知のアーティス達と交流するほか、新しいアーティストの発掘もする。
2018年に注目しているのはインドと東南アジアだという。これらの地域のアート作品は人気が上昇しているだけでなく、価格も投資向けにちょうどいいのだ。
Sadler氏は実際にインドやベトナムを訪れ、アーティスト達との交流も図っている。
アートを購入し鑑賞するだけで終わらない「アート投資」の可能性は、まだまだ広がっていきそうだ。
【店舗名】 | Art Works(アートワークス) |
【住所】 | 3 Pickering St, #01-55 Nankin Row, Singapore, 048660 |
【営業時間】 | 月曜日〜金曜日 AM9 - PM6 |
【定休日】 | 土日祝は要予約 |
【WEBサイト】 | https://www.artworks.com.sg |
【Facebook】 | https://web.facebook.com/artworksSG/ |
※掲載内容は2018年4月時点の情報です。