Bespokedーパーフェクトな装いはテーラーにしか作れない

bespoked

クアラルンプール郊外にあるテーラー「bespoked(ビスポーク)」には、マレーシアはもちろん、タイや香港、シンガポールなどからも有名人やビジネスパーソンが多く訪れる。バドミントンのオリンピック銀メダリスト、リー・チョンウェイ氏も顧客の一人だ。

 

マレーシアには多くのテーラーがあるが、そのなかでもBespokedがセレブ達に選ばれる理由は何なのか。オーナーのIan Chang(イアン・チャン)氏に取材した。

 

BespokedペタリンジャヤのワンウタマショッピングモールにあるBespoked。モールに直結するホテルにつながる入り口のすぐ横にある。

 

 

 

サヴィル・ロウにあるようなテーラーを目指して

Bespokedは「Malaysia Tatler」などのメディアによく取り上げられているが、多くの記事が言及するのが「サヴィル・ロウ(Savile Row)」という地名だ。

 

サヴィル・ロウとは、英国ロンドン中心部のメイフェアにあるストリート。オーダーメイドの名門テーラーが集中していることで知られている。かつては、ナポレオン3世やチャーチル、現在ではロイヤルファミリーの御用達テーラーもサヴィル・ロウにある。また、日本語の「背広」の由来は「サヴィル」という説もあるそうだ。

 

客の要望に沿う仕立屋を英語で「Bespoked tailor」というが、これは、仕立屋が客から服の要望を話される(Be spoken)ということから作られた造語で、サヴィル・ロウ発祥の言葉だという。もちろん、今回取材したBespokedの店名はこれに由来する。

 

Bespokedのオーナー、イアンは、この伝統あるサヴィル・ロウで修行したテーラーであり、約10年前の2008年、サヴィル・ロウにあるようなテーラーを目指してマレーシアで開業したのが、Bespokedだ。

 

 

 

尊敬されたければ、まずはふさわしい服装で身なりを整える

イアンとテーラーとの出会いは、カレッジに通うために田舎からクアラルンプールに上京したときのこと。学費を稼ぐためにパートタイムの仕事を得たのがテーラーだったのだ。

 

 

BespokedのオーナーBespokedのオーナー、Ian Chang氏

 

 

自分でデザインした服を自分で作れる技術に魅力を感じたイアンは、卒業後、オーナーに「技術を学びたいので働かせて欲しい」と相談する。約12時間の長時間労働が一般的なテーラーには若手が不足しており、二つ返事で職を得たイアンは、そこで10年間修行した。

 

2002年、サッカーの試合を観るために初めてイギリスを訪れたイアンは、テーラーの憧れであるサヴィル・ロウのあるテーラーを訪れる。自分もテーラーであると自己紹介して、何らかのつながりを得たかったのだ。
だが、あっけなく門前払いされてしまう。

 

「ジーンズにTシャツというバックパッカーのような格好をしている若者が、3000ポンドもする高級なスーツを作るテーラーに入れてもらえるはずがありません。今ならそれが分かりますが、当時はなぜ門前払いされたのか理解できなかった。」

 

そして、イアンは、中国に伝わるという格言を教えてくれた。

 

「中国では、尊敬されたければ、まず自分を尊敬しなさい、と言います。これは服装についても言えます。
”If you want to get respect, dress up properly and respect yourself first”(尊敬を受けたければ、まずはその場にふさわしい服装でドレスアップして、自分に自信を持てる装いをして行くべきです)。
初めてサヴィル・ロウに行ったときの私は準備ができていなかった」

 

 

 

I learned what is 'perfection' as a tailor.

次に、サヴィル・ロウとの関わりが出来たのは数年後のことだ。

テーラーの国際会議がペナンで開催されることになり、その会議にサヴィル・ロウの有名なテーラー「Maurice Sedwell(マウリス・セドウェル)」のSir Andrew Ramroop(サー・アンドリュー・ラムループ)氏が出席するというのだ。

 

「自分の履歴書や作品集を用意し、もちろん、身なりも整えて彼に会いに行きました。自己紹介して、彼のテーラーで学ばせて欲しいとお願いしたら、いいですよと受け入れてくれたのです。イギリスのテーラースクールには、1万5千ポンドも学費をとるところもあるなか、アンドリューは無償で私に教えてくれた」

 

 

Bespokedサヴィル・ロウで修行するイアン。中央の男性がサー・アンドリュー・ラムループ氏。

 

イアンはアンドリュー氏が受け入れた初めてのマレーシア人となった。

その後、アンドリュー氏のもとには海外から多くのテーラーの卵が集まるようになり、現在ではテーラー内にアカデミーを設立し、多くの若者に技術を惜しみなく教えている。

 

「技術はもちろんですが、アンドリューから学んだもっとも重要なことは “What is perfection as a talor”(テーラーとして完璧とはどういうことか)。テーラーとしての受け答え方や振る舞い、細部までこだわった完璧な服作りなど、テーラーとはどうあるべきかを学びました」

 

 

 

顧客を理解していなければ、その人の服は仕立てられない

イアンがマレーシアで自分の店をオープンしようとしていたのは、マレーシアに有名ブランドがどんどん出店し初めていた時期でもあり、「もはやテーラーは不要」と言われ始めた時期でもあった。

両親にも「今どきテーラーなんてやめておけ」と言われたが、イアンは聞かなかった。

 

「マレーシアの昔ながらのテーラーと、私のテーラーは違う」

 

イアンは、とにかく徹底的に顧客の要望を聞き出す。

結婚するからタキシードが欲しいという客がいたら、いつ、どこで結婚式を挙げるのか、どんな結婚式をするのか、服の好みはどうか、事細かに質問する。
そして、世界に一枚しかないとっておきのタキシードが出来上がる。

サイズがぴったりなのは言うまでもないが、ボタンやステッチ、ポケットの形、裏地にまでこだわり、もちろん裏には名前も入っている。

 

 

Bespoked布地に細かく名前をステッチした特注の布を好む客もいるという。

 

 

会話を通じて顧客を理解するので、顧客の好みをがっちりと把握できるだけでなく、信頼されてあっという間に仲良くなる。そして、顧客が口コミで新な客を呼んできてくれるのだ。

 

「特に宣伝はしていないのに、タイや香港などから来る人がいるのは、お得意様が友達に紹介してくれるから」

 

店内には常連客の型紙が保管された一角がある。

 

「体にぴったりで心地いいシャツやスーツは、同じ型でもう1枚と注文されることが多いから、顧客の型紙はこうやってとっておく。これはうちの店の資産なんだ」

 

この型紙の量は、Bespokedへの顧客の信頼の厚さを物語っている。

 

 

Bespoked店内英国調の家具がシックな雰囲気の店内。現在Bespokedは、KL郊外の本店のほか、香港、オーストラリアにも店舗を構える。

 

 

Brand is status, fashion is matching, tailoring is perfection.

カスタムメイドのテーラーに対し、レディメイドのアイテムを提供するハイエンドなブランド。二つはまったく対極にあるようだが、テーラーから見たハイブランドの服とはどのような存在なのか。

 

「ブランドはステータス。自信がない人はブランドを身につけて金持ちであると見せつけたい。でも、それはファッションではないと思う。
ファッションとは、マッチング。全体のバランスがよくてその人に似合っていれば、高価なものでなくてもステキに見える。だけど、サイズなどはパーフェクトではない。
テーラーリングとは、パーフェクション。その人のためだけに作られたもので、世界に1枚しか存在しない。また、既製品のように、丈が長すぎたり、短すぎたりすることはない。
最近では、その人に合うようにお直ししてくれるブランドショップが増えているが、時代がテーラーリングを見直し始めているのだと思う」

 

 

bespoked生地やボタンなどの多くはイギリスから輸入。年に一度は渡英して業者にも会い、最新のトレンド情報を仕入れている。

 

イアンはここ10年でマレーシア人のテーラーへの意識はずいぶん変わったという。

 

「以前は金持ちでもシンプルな服装の人が多かったが、ネットなどで情報を得られるからか、テーラーへの需要も期待値も上がってきた。最近はスタンダード以上のものを要求する人が増えてきたが、とてもいいことだと思う」

 

 

 

If you are a executive person, You must have a tuxedo.

Bespokedには、日本人の常連客もいる。ほとんどが企業の代表や会社重役などエグゼクティブだ。

 

「日本人男性は、仕事では必ず白かブルーのシャツにダークカラーのスーツを着る。ビジネスにパーフェクトを求める姿勢の現れだと感じたよ。
また、日本人は素材のことをよく理解している。例えば、リネンとは、ウールとはどんな素材でどんな手触りなのか知っていて、いい素材を好む人が多い。
一方、マレーシア人や香港人は、素材よりもカラーや型などファッション性があるものを好む。最近店舗を出したオーストラリアは、いつもカジュアルな服装の人が多くて、テーラー文化はまだまだこれからという感じだね」

 

テーラー初心者へ、まずは何を仕立てるべきかアドバイスをいただいた。

 

「一着目は、日常的に着るビジネス用のグレーやネイビーのスーツ。
2着目は、旅行やレジャーにカジュアルに着るためのスポーツジャケット。
3着目は、ドレスコードがブラックタイのイベントで着るタキシード。
今の時代、会社の重役などエグゼクティブならフォーマルなイベントに出席する機会も多いはず。タキシードは必ず持っていたいアイテムです」

 

 

Bespoked一見普通のスポーツジャケットだが、裏地やボタンなど細かいところまでこだわっている。

 

 

Bespokedの場合、採寸から仕上がりまでは最短で約2週間ほど。

 

テーラーメイドスーツは、スマートに見えるのはもちろん、ここ一番というときにはパワーもくれる。ワンランク上を目指すなら、パーフェクトな装いを作ってくれるスーツをプロフェッショナルなテーラーで仕立ててみてはいかがだろう。

 

 

 

 

【店舗名 】 Bespoked(ビスポーク)
【住所】 G219 & G219a, Ground Floor Promenade, 1 Utama Shopping Centre,
No. 1 Lebuh Bandar Utama, Petaling Jaya, Selangor 47800, Malaysia
【電話番号】 603 7724 2499
【営業時間】 AM10:00 - PM10:00
【定休日】 無休
【予算】 RM 2,000〜(スーツ上下)
【WEBサイト】 http://bespoked.com.my/
【Facebook】 https://www.facebook.com/bespoked/
【instagram】 https://www.instagram.com/bespoked_ianchang/

※掲載内容は2018年3月時点の情報です。