ASEAN・マレーシアのブロックチェーン・仮想通貨革命

 

12月14日、マレーシア中央銀行(Bank Negara)が、仮想通貨についてのガイドラインの草案を発表し、注目が集まっている。

2018年から、仮想通貨の取引に対し「Anti-Money Laundering, Anti-Terrorism Financing and Proceeds of Unlawful Activities Act 2001(反マネーロンダリング、反テロ資金調達および反非合法活動収益法(ALMA)2001年制定」が適用されることになる。

仮想通貨の取引所は、中央銀行の監督下で営業することとなり、マネーロンダリングやテロ資金対策のための予防策を講じることが求められる。

この規則が実行されれば、これまで中央銀行の方針が決まるのを待って「様子見」をしていた企業が一気に仮想通貨ビジネスに参入する可能性もある。仮想通貨での決済を受け付けるサービスが増えれば、仮想通貨はより身近なものになっていくはずだ。

とはいえ、2017年12月現在、仮想通貨で決済ができる店舗はマレーシアではまだ少ない。

「ASEANのブロックチェーン革命」連載二回目の今回は、合法化発表前からビットコインでの支払いを受け付けていたカフェレストランとクリニックのオーナーに取材した。

 

 

 

電子マネーは、クレカや現金より優れた決済手段

「JEQ in The House」は、クアラルンプール郊外のペタリンジャヤ、SS17地区にある。SS17は古いショップロットに洒落たカフェが多く入居しているエリアで、「JEQ」は若者に人気のあるカフェレストランのひとつだ。

 

JEQ in The House

 

開店したのは2014年。アーモンドをたっぷり使ったティラミスや、コールドブリューコーヒー、ピザなどが人気で、スタイリッシュな内装はいかにも若者に受けそうだ。

だが、一般的なカフェとは異なるのがレジ前の様子だ。

ビットコインやイーサリアム、「Fave Pay」といった電子マネーでの支払いをするためのQRコードが表示されたボードが並んでいる。開店した2014年からビットコインでの支払いを受け付けていたというから、マレーシアではかなり早い方だといえるだろう。

 

 

待ち合わせたのはオーナーのJason Yapさん。中華系マレーシア人で、JEQの他にも中華レストランを数店舗経営しているが、本業はIT系でホスティングサービスを提供する会社を経営している。ブロックチェーンやビットコインに草創期から関わっているのは、ほぼ例外なくIT系の人だが、Yapさんもその一人である。

一緒に現れたのは、中国から遊びに来ているという友人。

「中国は電子マネーが普及していて、現金を持ち歩かなくてもいいそうですね」と話を振ると、Yapさんは大きく頷いた。

「私は電子マネーが好きなんだ。中国ではAlipay、WeChat Payといった電子マネーが普通に使われていて、本当に現金は不要になってきた。うちのカフェでも仮想通貨以外に電子マネーも導入しているが、クレジットカードより手数料がずっと低いし、銀行やクレジットカード会社を通さなくてもいいから、支払い処理は数秒で終わるし、いいこと尽くめだね」

JEQは、シンガポール系の仮想通貨取引所「LUNO(ルノ)」に法人名義の口座をもっており、ビットコインやイーサリアム(Ethereum)はマレーシアリンギに変換して口座に入れている。価格が変動して経理が複雑になるのを防ぐため、支払われた仮想通貨をそのまま保有することはしないのだという。

「この店にとっては、仮想通貨はあくまでも非常に優れた決済手段に過ぎない」と、Yapさんは強調した。

 

 

 

2010年からマイニングを始めてビットコインを稼いだ

Yapさんがブロックチェーンに出会ったのは2010年頃。

「すぐにすごい技術だと分かったよ。仲間と5万リンギを投資してクアラルンプールでマイニングも始めた。当時はビットコインの価値が低かったので、マイニングをやっている人が少なく、結構な量のビットコインが手に入った。最近ではマイニングをする人が増えすぎて効率が悪くなったからマイニングは止めたけど、アルトコインを買うのは手元にあるビットコインでまかなっている」

「当初は、誰もビットコインを信用していなくて『200万リンギ投資する』と言って結局投資しなかった知り合いもいる。でも、もし当時投資していたら100倍くらいになっていたかもね。最近になって、『なんでもっと早くビットコインの話をしてくれなかったんだ』なんていう友達もいるよ」

 

 

 

投資目的で仮想通貨を買っている人は、本質を理解していない

とはいえ、Yapさんは仮想通貨を「金儲けの手段」としてみているわけではない。

「金儲けのために仮想通貨の取引を始めた人のほとんどは、ブロックチェーンの本質を理解していない。私もそうだが、ブロックチェーンの技術的なところから入った人はブロックチェーンの可能性のすごさをよく理解している。
ブロックチェーンを使えば、誰もデータを改ざんすることはできないし、透明性も保てる。
例えば、IBMはブロックチェーンの技術を、金融業界だけでなく、製造、小売、物流、公的機関などに導入しつつある。
シンガポールの中央銀行はすでにブロックチェーンの技術を導入していて、偽物の食品が多い中国ではアリババがブロックチェーンを使って食品をトレースする仕組み作りを推進している。選挙もブロックチェーンを使えば不正が防げるわけだ。
ブロックチェーンをうまく利用すれば、消費者や市民が恩恵を得ることができるはずだ」

Yapさんは、近い将来、ブロックチェーンを使ったオンラインのビジネスを始める計画だという。

 

 

JEQ In The House
No. 19, Jalan 17/45, Section 17, Petaling Jaya, Selangor, Malaysia
https://www.facebook.com/jeqinthehouse/

 


 

 

ビットコイン決済が可能な地方の小さなクリニック

次に訪れたのは、マレーシア国内のセランゴール州クランにある小さなクリニック「Klinik Alam Medic」だ。

「ここは今年の7月にオープンしたばかりよ」と話すのは、オーナーのSelvi医師。

 

「ビットコインを初めて知ったのは、一昨年ぐらい前にインディアンチャンネルで放送されていた仮想通貨についての番組を見たとき。すごくわかりやすくブロックチェーンと仮想通貨について説明していて、『これはすごい技術だ。将来法定通貨に代わって流通しうるものだ』と思った」

すぐにビットコインの口座を作り、2016年1月頃から自分で売買を始めてみた。ちょうどビットコインの価格は上がり続けていた頃である。

「最近では、かなりビットコインの知名度が上がってきたけど、当時はまだビットコインという言葉を聞いたことがあっても、詳しく知っている人はマレーシアではほとんどいなかった。ビットコインのことをもっと知ってもらいたいということもあって、決済手段としてビットコインを導入することにした」

 

 

ビットコインを導入するといっても、ビットコインの個人口座のQRコードを窓口に貼り付けるだけだ。

診察料をスマートフォンの為替レートアプリでビットコインの時価に換算し、患者がその額を自分のスマホなどのデバイスにインプットしてQRコードをスキャンすれば数秒で支払いが終了する。

ビットコインの値上がりが続いていることもあり、支払われたビットコインはマレーシアリンギに換金はせず、ビットコインのまま保有しているという。

 

 

 

ほとんどの客が「ビットコインで支払いをしたのは初めて」と喜ぶ

ビットコイン決済を導入したのは2カ月ほど前。クリニックのFacebookで告知し、友人たちにも連絡したという。

ビットコインが使えるからという理由で来院した患者はいないものの、支払いの際にビットコインで支払いができることを知って利用したのは2カ月で8人程度。ほとんどが30代の男性だ。

「投資目的でビットコインを購入している人が多いようで、実際にビットコインで決済したのは初めて!と楽しそうな反応を見せる人がほとんど。
クレジットカードやデビットカードは、システムがオンラインでないと決済できないことがあるし、レシートが必要。特にクレジットカードは手数料が高い。それに比べてビットコインは、レシートも必要ないし、スマートフォンで決済ができるので簡単。
今では、『ビットコインを導入しているクリニック』としてメディアに取り上げられたり、いいことばかり。医師の友達も多くがビットコインに投資を始めているし、ビットコインでの決済にも興味をもっている。
中央銀行はまだ規則を発表していないけれど(2017年11月取材時のコメント)、ビットコインを売買したり、ビットコインを決済手段として利用するのは違法なことではないから、もっと多くの人にビットコインの素晴らしさを知ってもらって、多くのサービスでビットコインの決済ができるようになるといいと思う」

 

 

Klinik Alam Medic
No. 35A, Jalan Ramin 1/KS7, Bandar Botanic Klang, Klan, Selangor, Malaysia
https://www.facebook.com/klinik.alammedic.50

 

 

このクリニックのように小規模な法人では非常にシンプルな決済方法が行われているようだが、大企業がビットコイン決済を導入し始めれば、ポスシステムなどと連携させてレシートや領収書を発行するシステムなども必要になってくるだろう。

中央銀行が仮想通貨に関するガイドラインを制定すれば、マレーシア国内の仮想通貨関連ビジネスが一気に活性化する可能性は高い。

マレーシアの仮想通貨ビジネスは、今、まさに夜明けを迎えようとしている。

 

※ビットコイン取引は、銀行の海外送金より手数料が安く処理も速いが、取引量が増えてきたため、時間やコストがかかるケースが増えている。