WOMAN & THE KL

 

エイミー・ブレア/Amy Blair
バティックブランド BATIK BOUTIQUE創業者・CEO
アメリカ、テキサス州出身。マレーシア在住11年。

インタビュアー
出久根 千香(でくね ちか)/Chika Dekune
THE KL メディアディレクター/THE KL Media Director

 

対談シリーズ「WOMAN & THE KL」では、世界で活躍する女性との対談を通じ「グローバルに活躍する女性の考え方」を探っていく。

バティックブランドをマレーシアで経営するエイミーさんとの対談の前半では、エイミーさんがバティックや裁縫、デザインなどを学び、起業した経緯などをお聞きした。

 

▼前編記事はこちらから
WOMAN & THE KL「女性の「共感力」が世界を変える 前編

 

 

後半は、アメリカ出身であるエイミーさんが戸惑ったという東洋と西洋の考え方の違い、またフェアトレードに対する想いなどについてうかがった。

 

 

 

職人、主婦、企業、それぞれの考え方の摺り合わせが難しい

出久根:社会的、文化的な背景が異なる人と働くのは難しいと感じたことはありますか?
例えば、日本人は時間に比較的きっちりしているので、マレーシアだと期日に間に合わないことが多い、など、私は最初驚きました。

エイミー:よく分かります。
マレーシア人の友人に「ランチに行かない?」と誘われて、「いつ?」と聞いたら「今日、これから」と言われてびっくりしたことがあります。

仕事で忙しいアメリカでこんなお誘いは失礼にあたるかもしれませんが、マレーシアでは単に仲良くしたいから好意で誘っているだけなんですよね。
11年もいるとマレーシアの考え方に慣れてしまって、逆にアメリカに帰国したときにカルチャーショックを感じることもあります。

 

 

Batick Boutique

 

 

出久根:ビジネスをするなかでカルチャーショックを感じたことはありましたか?

エイミー:アメリカ人はみんな「白いものは白」と、はっきり言います。
でも、マレーシアに限らずアジアでは、物事をはっきりということが美徳とはされておらず、心で思っていることと違うことを言う場合もあります。
西洋と東洋の文化の違いだと思いますが、これを理解するのに少し時間がかかりました。

 

出久根:日本も東洋的文化なので、その点はマレーシアに似ていると思います。

エイミー:そうですよね。私のように、西洋から東洋というように、文化のまったく異なる場所に住む場合、2つの段階があると思います。

1つ目は「友達レベル」。その土地の食べ物を食べて文化や言語を学ぶレベルです。

次の「ビジネスレベル」はまったく別。このビジネスのアジア的なカルチャーを今でも日々学んでいます。

 

出久根:東海岸の方の職人さんは、また別の考え方なんでしょうね?

エイミー:まったくその通りです。
私の場合、近所に住む女性たち、東海岸の職人さん、取引先の企業でまったく考え方が異なります。それを理解して、折り合いを付けていくのは大変です。

例えば、ある企業から4000個のスカーフの注文が来たとします。
企業は納期までに一括納品を希望しますが、バティックの職人さんのライフスタイルはシンプルで、多くを欲しがらない人も多く、お金のためにがむしゃらに働くという感じではありません。

 

 

バティック職人

 

 

また、モンスーンシーズンはバティックがなかなか乾きませんし、ラマダン中はお腹が減って力が出ないから作業にも時間がかかります。
そういう状況も理解しつつ、職人を急かす一方で、企業には手作りだから一定の時間がかかることを説明して待ってもらわないといけません......。

出久根:それは大変ですね。

エイミー:考え方が違うからといって、私の考えを一方的に押しつけることはできません。
まずは、お互いを理解しないと。そして、理解し合えたら、周りにある共通の問題の解決方法を一緒に探していけばいいのです。

 

 

 

マレーシアは子育てのサポートを得やすい国

エイミー:仕事で大変だったこともありますが、私生活でも仕事をしつつ第2子と第3子も出産したし、本当に大変でした。

出久根:起業して大変な時期に2人目、3人目も出産されたなんてすごいですね。
マレーシアにおける、子育て中の女性に対するサポートについてどうお考えですか? また、アメリカではどうですか?

 

エイミー:私はアメリカ南部出身ですが、アメリカでは、チャイルドケアの費用が非常に高い。なので、子どもが学校に行く年齢になるまで家で子育てをして、それから仕事復帰する女性が多いですね。

マレーシアは、子どもを預けられる信頼できる人を見つけて手配して、自分が働きやすい環境をつくることができる場所といえるかもしれません。
もちろん、すべてを外注するのではなく、仕事をする時間を確保するためにサポートをしてもらうという感じです。

とはいっても、仕事を続けるために諦めたことはたくさんあります。
友達とランチにいったり、スポーツを楽しんだり、マッサージを受けたり、ペディキュアをしたりする時間はありません。でも、現状にはとても満足しています。

すべてを得ることはできないのですから、何が欲しいのかを決めて妥協しないと。

 

出久根:日本も同じです。子どもを保育園に預けられずに仕事に復帰できない女性も多いですから。

 

 

Batick Boutique

 

 

 

スタバやフォーシーズンズなど大企業との取引を勝ち得たわけ

出久根:スターバックスやフォーシーズンズホテルのような大企業とも取引をされていると聞きました。一方でショップもオープンされていますが、B to Bと、B to Cではどちらがメインですか?

エイミー:B to Bの取引で一括で大量の注文をもらう方がビジネスとしては効率がいいですから、そちらが約8割を占めています。
2017年の12月にオープンしたこのショップの目的は、ブランディングです。

ブランドの知名度を上げると同時に、2階でバティックのワークショップを行い、旅行者にマレーシアの伝統工芸に触れてもらってバティックを作る難しさや背景を理解してもらえるような場にするために運営しています。

 

出久根:大企業から契約をもらうのは簡単ではないと思います。大企業と取引するために必要なこととはなんでしょう? 

エイミー:品質がいいこと、価格が適正であること、企業の目的が適正であること。この3つだと思います。

フェアトレードというコンセプトも大切なのですが、大企業の要求は高くて、コンセプトだけでなく、当然、価格と質も重視します。
私達のブランドは高く評価されていて、だから大企業に選んでいただけました。
5年かかりましたが、一度大企業と取引した実績ができると、その後はいろんな引き合いが来ます。

マレーシア以外では、アメリカのブランド「Raven + Lily」や、日本のオンラインショップ「TROPICALTEX」にも商品を卸しています。

 

▼「Raven + Lily」のWebサイト
https://ravenandlily.com/

 

▼「TROPICALTEX」のWebサイト
https://www.tropicaltex.com/

 

 

Batick Boutique

 

 

 

アパレル産業がフェアトレードに取り組むべき理由

出久根:私もフェアトレードのベビー用品を日本で販売したことがありますが、「なぜこんな高い金額を払う必要があるのか分からない」とお客さんに言われたことがありました。
最近では、フェアトレードはトレンドで、流行っているから買ってみるという方も多いようですが......。

エイミー:世界の人口の半分は生活費が1日2ドル以下という貧困の状態にいるのですが、私達が着ている服の多くは、そういう貧困の環境にいる人達が作っています。
でも、彼らが得ている給料はまったくフェアとは言えない額です。こういう状況を知らない人は多いですよね。

アパレル産業のもう一つの問題点は、環境汚染。
大量のハギレを廃棄するアパレル産業は、ガス・オイル業界に次いで二番目に地球の環境に悪いとされている産業なんです。

特に問題なのは、H&Mのようなファストファッション。
なかには、ステラ・マッカートニーのように、持続可能な服作りに取り組んでいるブランドもありますが、多くのアパレルブランドが、この2点、労働力の搾取と環境汚染という問題の上に成り立っています。

だから、私達のようなこの構造を知っている人が、消費者を教育していかなければいけません。10リンギの安い服を買ってこの悪循環をサポートするのか、または買わずに悪循環を止めるのか?

 

出久根:この2つの問題を解決するために、具体的にはどういう取り組みをされているんですか?

エイミー:職人やスタッフにフェアな対価を支払うのはもちろん、布を無駄なく使い切るようにキーホルダーのような小さめのアイテムを作ったり、バティックの染料を環境に優しい植物由来のものに替える取り組みをしています。マンゴスチンで染めたスカーフなどもあるんですよ。

 

出久根:起業家として、女性だからこそのメリットやデメリットは感じますか?

エイミー:男性が話せば人は聞きますが、女性が話しても耳を傾けてくれないことはよくあります。それはアメリカでも、マレーシアでも同じ。
だから、女性は自分の力を常に証明し続けなければならないですよね。でも、それでいいと思っています。

 

出久根:同感です。私も女性は女性なりの力を発揮すれば良いと思います。

 

 

Batick Boutique

 

 

出久根:起業してからこれまでで一番大変だったことは?

エイミー:資金繰りです。
大企業は、納品から一カ月後などの掛け払いが一般的です。
でも、こちらはまずは材料を仕入れないと行けないし、バティック職人などへは週払いだったりします。
だから、納品先から入金の知らせを受け取った瞬間は、本当に本当に、幸せ。

 

出久根:ビジネスをやめたいと思ったことはないんですか?

エイミー:一緒に働いている女性たちは、食べさせていかなければならない子ども達がいて、やめたくてもやめられない。私がやめるわけにはいかないんです。

私はクリスチャンなのですが、この仕事は神様が私に「やりなさい」といっているのだと思っています。だから、神様が「やめろ」と言わない限り止めるつもりはありません。
逆にいうと、ここまで来るのは本当に大変だったので、信仰がなければ続けるのは難しかったと思います。

 

出久根:最後に、今後の目標を教えてください。

エイミー:最終的には、タイのジム・トンプソンのような感じで「バティックブランドといえばBatik Boutique」という存在になれればと思います。

あとは、Batik Boutiqueの商品を観光客向けに販売したり、バティック体験ができるような施設をKLの市街地に作るという計画を実現させたいですね。

 

 

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《 Woman & THE KL「女性の「共感力」が世界を変える 前編」記事はコチラ 》

 

▼エイミーさんが経営する「Batik Boutique」についての記事はこちらから
Batik Boutique(バティックブティック)

 

■エイミー・ブレアさんプロフィール■
バティックブランド BATIK BOUTIQUE創業者・CEO。アメリカ、テキサス州出身。マレーシア在住11年。