52barbers

男の「秘密基地」のような場所。それが第一印象だ。

 

クラシカルな2台のバーバーチェアと大きなミラーは、確かにここが理容室だと感じさせる。だが、アンティークやビンテージが好きなこの空間の主のスタイルが、いたる所ににじみ出ているのだ。

 

 

52barbers打ち放しコンクリートの壁、床の黄色いライン、天井に走る運搬用のレールなどは、印刷工場に使われていた当時そのままに残してある。中央のはさみなど器具を置くためのラックも工場で使われていたものをリメイクして使っている。

 

 

打ち放しコンクリートの壁に描かれたネイティブアメリカン風のモチーフ。

「MOMOTARO JEANS SOLD HERE」というサインボード。

クラシカルな蓄音機型のLDプレイヤー。

アイリッシュウイスキー「JAMESON」のボトル。

ライカの35mmフィルムカメラなどが入ったドライボックス。

 

この理容室の主は、McBe(マックビー)。シンガーソングライターから理容師に「転職」した異色のバーバーである。

 

 

 

話題のスポット「APW」

理容室があるのは、APW(Art Printing Works)という高級住宅街バンサーの一角。

数年前から流行に敏感な若者の間で話題となり、インスタグラムにもよく登場している人気スポットだ。

 

1952年に建てられた印刷工場の一部を改装し、古く趣のある壁や床などはできるだけそのままに、しっかりとしたコンセプトをもとに集めたカフェやバー、レストラン、コワーキングスペース、イベントスペースなどが軒を連ねる。

APWには「人が集まる場所」に特有の空気が漂っている。

 

 

52barbers

 

 

そこに、McBeの理容室「52 Barbers」は、昔からあったかのようにしっくりと存在している。

 

McBeは、昼間は理容師として働き、水曜日の夜はシンガーソングライターとなる。

店のドアを全開にし、ギターを手にバーバーチェアに座り、APWのバーやレストランに集う客に歌を披露するのだ。

 

「いつも一人で歌っているけど、お店にアンプをもう一つ用意してあるから、ギターやベースを持って飛び入り参加してくれる人は大歓迎だよ」

 

 

52barbers

 

 

 

口コミで人気となり、世界中から人が来るようになった

McBeは、バーバーとしてのキャリアはわずか数年、自身の理容室をオープンして1年ちょっとなのにもかかわらず、「Time Out」や「Malaysian Tatler」といった著名なメディアに取り上げられている。

外国人が多く住む高級住宅街バンサーに位置することもあり、客の国籍もさまざま。つい最近は、日本在住の日本人美容師がKL観光のついでに来店したそうだ。

 

人が集まる理由は、彼自身の完成されたスタイルを好むファンがいること、また、顧客に心地よい時間を過ごしてもらいたいというMcBe流の「おもてなし」が受け入れられたからに違いない。

例えば、ウイスキーをこよなく愛するMcBeは、アイリッシュウイスキーの「JAMESON」とコラボしており、顧客にウイスキーを1ショット無料でサービスしている。

 

 

52barbers

 

 

「ここはただ髪を切るだけの場所ではないし、私もお金のためだけに髪を切っているわけではない。世界中から来店するさまざまな背景を持った人と出会えるし、インスピレーションも得られる。私にとってとても大切な場所なのです」

 

 

 

「バーバー、ときどきシンガー」になった理由

McBeは、サバ州の田舎で生まれ育った。

ドゥスン族という自然を神とする少数民族に生まれ、大自然のなかでサッカーやバスケットボールをしたり、友達のギターを弾いて遊んでいた。

ギターは10歳の頃から始めたという。

 

クアラルンプールでは、シンガーソングライターの活動をしつつ、企業に属して働いたこともある。

歌手としての評判は高く、KLでもっとも有名なライブハウスのひとつであるRi's Bangsarや、ゲンティンハイランドのArina of Starsなどでもパフォーマンスを披露している。

 

 

水曜日の夜はこのギターで歌を披露する。

 

 

一時は歌手活動に専念したが、「このままではだめだ」と、歌手以外で生計を立てる道を模索した。

 

「音楽は情熱がなければできない。でも、お金のために毎日音楽をやっていたら、音楽への情熱を使い果たしてしまうのではないかと感じた」

 

音楽以外に自分に何ができるのか。

ビンテージのアクセサリーやジーンズなどのファッションは好きだし、理容室で身だしなみを整えてもらうのも好きだ。

特に、バーバーなら自分にも出来そうだし、やってみたい。

 

決心したMcBeは、クアラルンプール郊外の理容室、Amplitude Barbershop(現在はOthrs.)でスキルを学んだ。

Amplitude Barberは、ギターショップのAmplitude Musicとパートナーシップを結んでおり、ギターが壁にディスプレイしてあるなど独特のコンセプトの理容室だった。まさに、McBeにぴったりの場所でスキルを学んだのだ。

 

知り合いの理容室で修行中、たまたまAPWがテナントを募集していることを知り、すぐに応募。APWのオーナーとも話し合いを重ね、現在の「秘密基地」のような理容室が完成した。

 

 

 

かっこいい男とは「カジュアルリッチマン」

「かっこいい男とはどういう人か?」という質問に、McBeは「カジュアルリッチマン」と答える。

リッチだがカジュアルな男性。

自分の好きなことを仕事にしている人や、仕事や生活を心から楽しんでいる人。

必ずしもお金があるという意味でリッチというのではなく、自分の軸を持ち、自分の好きなモノやことに向かって時間やお金を投資して努力しているような、心がリッチな人。

 

「例えば」と、McBeが名前を挙げたのは、彼自身がいつも身につけているシルバージュエリー「FIRST ARROW's(ファーストアローズ)」の創業者、伊藤一也氏だ。

「彼のインディアンジュエリーも好きだが、彼の生き方もいい。ハーレーが好きで、車が好き。レースに参戦したり、ボクシングに挑戦して試合でボコボコにされたり、好きなモノに囲まれて、好きなことに挑戦して、とても豊かな時間を過ごしていて最高にかっこいいと思う。

 

 

52barbers_07

 

 

私が好きなアンティークやビンテージのアイテムには、それぞれの歴史やストーリーが詰まっていて、それがにじみ出ている。
バーバーも一緒。理容師という職業には歴史があって、その歴史やストーリーを知ったうえでカットするのと、まったく知らないのでは、カットに込められたものがまったく違う。
私も好きなモノに囲まれて、好きな理容師の仕事をしつつ、シンガーであることも続けている。こんな幸せなことはない」

 

メニューは男性向けのカットとシェービングのみ。

水曜日の午後に来店すれば、そのまま夜のライブも楽しめる。

 

 

 

【店舗名 】 52 Barbers (フィフティトゥー バーバーズ)
【住所】 29 Jalan Rion, Kuala Lumpur
【営業時間】 火曜日〜日曜日 AM11 - PM7
【定休日】 月曜定休
【予算】 カット RM75、シェイブ RM45〜
【個室の有無】
【喫煙】 全室禁煙
【WEBサイト】 https://52barbers.resurva.com/book(オンライン予約)
【Facebook】 https://www.facebook.com/52barbers/